その日はいつも通り甲板で
        “暇つぶし”を楽しんでいた。
        ふと見上げると
		空は暗雲に覆われ、
		小雨が降り出していた。
        ──嵐の前兆。
        
		僕は急いで船室で休んで
        いた奴らを呼び寄せ、
		帆を畳む準備をさせた。
		ダミアン爺さんも素早い。
		すぐにアゾレスへ引き返す
		よう、皆に指示を出した。
        
        最善は尽くした。
		だが、ようやくアゾレスが
		見えたところで波が暴れ出す。
        残念ながら街を前にして碇を
        下ろさざるを得ない。
        浸水への対応に追われ、
        寝ずの日々が続いた。
        
──嵐は過ぎ去った。
        だが船はボロボロ、僕らも満身創痍。
		判断力が欠如していた。
        一刻も早くアゾレスへ。そんな焦りがミスを誘った。
        いつの間にか船はアゾレスの港を大きく離れ、
		島の切り立った崖に衝突していた。
        衝撃でクリストファー先生が海に放り出される。
		誰もが最悪の事態を予想した。だが抱えていた
		荷物が水に浮き、先生は命拾いした。
        船は先端が完全に破壊され、そのまま崖に沿うように沈んで行く。限界の体を奮い立たせ、船が海に飲まれる前に何とか脱出した。
        
 
生きた心地はしなかったが、
		幸いなことに開拓団は全員無事だ。
        ビョルンは「家宝のかなづちが身代わりになった」と嘆いていた。
        今、僕はアゾレスで日々を過ごしている。
		正直、やり切れない思いだ。さてあと何日、
		ここで暇を潰せばいいんだろうか……。
 
遠洋探検家という職業柄、海の上での生活が長いためか“暇つぶし”と称して、よく釣りに興じている。
          楽天的な性格だが、請け負った仕事はきっちりとこなす主義だ。