そろそろ出立かという際に、僕は彼女に髪飾りを渡した。
先日プレゼントすると約束したもの。
白い、ダイヤモンドリリーの花冠だ。
よく見かける花冠はクレロデンドルムという花でできているそうだが、珍しいダイヤモンドリリーの花冠だったことと、その花にまつわる話を思い出して、手に入れた。
その後は祭りの喧噪に飲まれてしまい、僕らは満足な別れをつげることはできなかった。
サウラ一家はセビリアへ帰り、ポーリーヌさんはブルゴーニュへ帰る。
僕には帰る場所がない。
風が呼ぶ方へ。そこに僕の帰る場所があるはずだ。
そのときの風は、ブルゴーニュの方から吹いていた。
ポーリーヌさんが、出身であるブルゴーニュのヴージョ村に戻るのは、祭りが終わってからしばらくしてだろうと踏んでいたので、今ここで彼女の姿を見かけたのは正直意外だった。声をかけるべきかかけないべきか、行動に迷った挙句、かけないことにした。
しばらく少し離れた木の影から彼女を見ていた。
彼女は僕がプレゼントした花冠を手にして、それを見つめては空を見上げため息、を繰り返していた。
突き抜けるような秋晴れの空は、どんな重たいため息も飲み込んでくれそうだ。
村の方から彼女を呼ぶ大声が聞こえると、彼女ははっとして立ち上がり、そちらへかけていった。
途中で立ち止まり、長時間草を踏んでいたためできたスカートの緑色のシミに眉をひそめて、また大声で呼ばれる。
ポーリーヌさんはこうやって、いつもの暮らしに戻っていくんだろう。
風がまた別の方へと僕をいざなっていた。
僕は村に背を向けて歩き出す。
ダイヤモンドリリーの花を最初に見た人の話を、知っているかい?
南アフリカを訪れた航海者が、その花の美しさに虜になった話。
持ち帰るすべもわからず、花との別れを惜しんでつぶやいたその言葉。
「また会える日を楽しみに」
あなたとまた出会うなら、こんな突き抜けた秋空の下がいい。
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シロツメクサの花畑は 絶好のステージ
君を引き立てる要素は全て整っている
何かを得るために 何かを犠牲にして
悲しい想いをするんだ いつも
忘れるために 昇華するために
悲しい踊りを踊るんだ いつも
いつか君は踊れなくなる
いつか僕は歌えなくなる
その日まで 精一杯いればいいんだ
シロツメクサの小さな小さな花露は
僕らの歩んだ道を確かに写してる
その露を見つける人は 世界にたった二人だけ
春霞のシロツメクサ畑
僕らの「約束の地」 |
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