
夜も深まった頃。
城内の見回りを終えたほたるが、庭先から官兵衛の部屋を訪れた。
官兵衛「姫…」
言葉少なに想い人を迎え入れた官兵衛は、一見普段と変わらない。
だが、表情や声色のわずかな揺らぎに、驚き交じりの喜びが感じ取れる。
対するほたるは、どこか思いつめたような顔をしていた。
ほたる「…官兵衛殿、失礼します」
意を決したように官兵衛を見据えたかと思うと、距離を詰め、両腕で彼の胸をぐいと押す。
官兵衛は一瞬目をしばたたかせたが、すぐにその意図を汲み、ゆっくり後ろへ倒れ込んだ。
ほたる「身動きすらしないのですか。従順ですね。…このまま何をされてもかまわないということですか」
揺らめく瞳に見下ろされ、官兵衛は感慨深げなため息をこぼした。
官兵衛「……いい、何をされても。俺は姫のことが──」
ほたる「待ってください」
ほたるは切なげに眉を寄せ、小さく「先に言うのはずるいです」とつぶやいた。