思いがけないめぐり合わせに、どきん、と胸が高鳴る。
彼はにらみ合いの中心で歩みを止め、全体にほんの一瞬だけ視線を投げる。
おそろしく端正な顔立ちに、静かながら意志の宿った力あるまなざし。
それが、ほんの一瞬。ほんの一瞬だけど、あたしのところで止まって。ひきつけられるように、目が離せなくなる。
けど、それはあたしのほうだけだったみたいで。
彼は生徒たちが息を飲むように静まっていくのを待って、おもむろに口を開いた。
その問いかけには誰も答えない。押し黙ったまま。
しばらく沈黙が続いたところで、アレクセイさんがたったひとこと、そう返した。
けど、交わした言葉はそれだけ。
6人目――ロイとアレクセイさんが静かににらみ合う。ふたりの間に何者にも邪魔を許さない、絶対零度の冷気が横たわって。それがあたり一帯を支配してゆく。
あたしの横で、やれやれといった感じでシンシアが小さくため息をついた。
…たしか、さっきの説明によると、“鷹”は“鷲”と同等かそれ以上だったっけ。
そう思った瞬間。
どんっ
ひざの裏になにかが激突。瞬間、視界のはしを黒い物体がかすめて。
犯人はクッキーだと気づくのに時間はかからなかったけど、すでにあとの祭り。あたしは身体ごとふたりのにらみあいの中心に落ちた。
絶対不可侵の絶対零度――ロイとアレクセイさんの冷たい戦いを見事にブレイク。
そんな直感が走って、反射的に立ち上がる。
そして直感は的中。あたり360度全方位から、無数の瞳がいっせいにあたしを突き刺してきてる…!
じり、とあとずさってもどこにも逃げ場なし。
どうしよう…!
――と。ギャラリーの中から、弾けるような声がして沈黙が破られる。
一瞬にしてスイッチが入ったようにざわめきが広がって。
群集から男の子がひとり、あたしめがけて飛び出してくる!
ばっ!と手が伸びてきて――。
――!
……。
…あれ?
とっさにつぶった目を開けてみると――。
ロイがあの男の子の腕をつかんでて。
こらしめるようにギリ、と力を込めてから突き放す。
次の瞬間。
あたしの肩に腕がかかって――ぐいっ!と胸に抱き寄せられた…!? 驚きの声を上げる間もなく、低いささやき声が耳をくすぐる。
そして、あの男の子をゆっくりと見すえて。いとおしそうな手つきでしゅるんとあたしの髪をもてあそびながら言い放つ。
ええええ!?