ラブφサミット
     
  (春の庭園)

「わあ…」

シンシアと寮に向かう途中。

目の前にとてつもなく広くて立派な庭園が現れた。

幾何学的に形が整えられた植え込みがばーっと続いてて。

あとはバラかな? ピンク色の花がそれはもう見事に咲いてる。

シンシア

「ここは、またあらためて案内するわね」

バラの咲く庭園をバックに、にこ、とほほえまれて。

(絵になる…!)

…なんて、ちょっときゅんとしていると。

正面方向から黒い物体が猛スピードで接近してくる。

あ、ひょっとして!
黒のラブラドール・レトリバー!?
気づいたときにはもう遅くて。

「わうーん
「クッキー!」
「わあっ!」

声がした次の瞬間、渾身のアタック!

…もとい、黒ラブにじゃれつかれて派手にしりもちをついてしまった。

ふと、頭上に影が差す。

ウィリアム

「ごめんね、大丈夫?」

ミルクティ色の、流れるようなサラサラストレートの髪。

ロイヤルブルーの瞳。

貴公子とか、王子さまとか、月並みだけどそんな表現がぴったりな男の子が、あたしを気づかうようにのぞきこんでる。

ああ、この人も写真の人だ。
ウィリアムさん、だっけ。

「ほら、クッキー。こっちおいで」

ごきげんな黒ラブ(クッキーという名前らしい)をあたしから離して、手を差し伸べてくる。

男の人に使うのはまちがっているかもしれないけど、まるで白魚のような手。
長くて細い綺麗な指に思わず目を奪われてしまう。

ウィリアム

「どうしたの? どこか痛いところ、ある?」
「あ、いえ、なんでもないです!」

引き上げてくれる力が意外と強くて、しっかり男の人なんだって感じがする。

「ありがとうございます」
「どういたしまして」

クッキーは彼のうしろにお行儀よく座っててごきげんの様子。
今すぐまた飛び掛ってくる気配はないみたいでちょっとほっとする。

「ウィル? その子…?」
「ああ、シンディ。遊んであげてたんだ。――でも」

ふいに、ふわっとほほえみかけてきて。

「俺より君に遊んでもらうほうが魅力的だったみたいだね」
(わ…)

プリンススマイル。
思わず勝手にそう命名する。

「遊ぶというより、逃げられただけのように見えたのだけど」
「はは、相変わらず手厳しいな」

名前の呼び方といい、遠慮のない物言いといい、このふたり、知り合いなんだ。

「…ところで、ごめん。自己紹介が遅れたね。俺はウィリアム。君は?」
「あ、あたしは…」
「ああ、これは伯爵殿下」
リヒャルト

言いかけて、背後から飛んでくる声にぎくっとする。

リヒャルトだ。

シンシアとあたしを追いかけてきたんだ。

しかしなんてトゲのあるセリフ回し…。

「犬の勝手気ままにさせてやるなんて、ずいぶんとお優しいことですね」
「残念なことに、他者を厳格に統制して悦に入る趣味は持ち合わせていないからね。
ねえ、将軍閣下」
「ああ、待って。僕の女神」
「おい待てよ逃げんなよ」
「……」

ジャン=マリーさん、エミリオ…そしてなぜかアレクセイさんも、続々と追いついてくる。

するとどこからか、“おい、僕たちも加勢するぞ”という声が上がる。

まもなく、がやがやと学生たちが続々集まってきて…ウィリアムさんやリヒャルトや…見知った人たちを中心に、あっという間に取り囲まれてしまった。

ロトφの人たちは学園アイドルみたいなものだって聞かされてたから、取り囲まれるのはまだいいとして。

鷹が、鷲が、隼が…どこがより強大か、強権を有しているか、優勢か…とか。
なぜか鳥の名前を出して言い合いをしてるみたい…?

小声でシンシアに聞いてみる。

「ねえ、さっきから聞こえてる“鷹”とか“鷲”とか…なんのこと?」
「あなた、本当になにも聞かされてないのね」

う、軽く驚かれちゃった…。

この学校じゃ知ってて当たり前のことなんだ。

「じゃあ、簡単に」

そう言って、シンシアは謎のワードについて説明し始めた。

世界経済の勢力が三派に分かれていること。
“鷹”、“鷲”、“隼”っていうのは、その派閥の通称だってこと。

「じゃあ、その派閥の人たちがにらみ合ってるのがこの状況…?」
「そう。“鷲”が“レッドイーグルグループ”。ウィルと私の家が属する勢力」
ウィリアム&シンシア


「“隼”が“ホワイトファルコングループ”。アレクセイとジャン=マリーはここ」
アレクセイ&ジャン=マリー


「“鷹”が“ブルーホークグループ”。エミリオ、リヒャルト、そしてあなたの家はここ」
エミリオ&リヒャルト


「えっ!? あたしも!?」
「そうよ。力関係としては、新興勢力の隼が一番下。鷹は鷲と同等かそれ以上。
あなたのおじいさま――磐井戀山氏は、その“鷹”のトップ。
だから、その孫であるあなたが“鷹の姫”…つまり、世界一のご令嬢というわけ」
(“鷹の姫”ってそういう意味なの!?)

ただの大富豪の孫ってだけじゃなくて、世界レベルのグループまでくっついてくるなんて。

こ、この話、どこまでスケール大きくなるの…!?

ロトφメンバーを中心に対立している生徒たちを、ただただ呆然と眺めてしまう。

すると。

ざわっ。

一連のさわぎとは別のざわめきが起こる。

群集の一部が、奥のほうからまっぷたつに割れていく。

割れた人の波の間から姿を見せたのは、涼やかな目元の男の子。

ロトφ6人目

息を飲むように押し黙りながらも、生徒たちの目は彼の姿を追っていて

そんな群集に、彼はまったく動じない。
ポーカーフェイスのまま、悠然とこちらへ向かってくる。

彼のまわりだけ、空気が違う。
まるでとんでもないオーラが漂っているみたいに。

(この人が6人目…)

最後にものすごい人がひかえていた――。

そして、ここに“ロトφ”の6人がそろってしまった。

ロトφ(ロトファイ)î


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