ヨーロッパの酒場にて
私の名はテオドール・クライン。
風に呼ばれて訪れた街で、人々に詩を届けるのが私のつとめ。
各地で見聞きしたことを忘れぬよう、したためておくことにする。


人々でにぎわうリスボンのバザールで色とりどりの品をながめ
ていると、私の背後に近づく懐かしい声。振り返ると、
そこにはあどけない妖精が、無垢な瞳を輝かせて微笑んでいた。
彼女はニナ。
相変わらずの無邪気な笑顔に、一家とともに各地をめぐった
思い出があざやかによみがえる。

彼女たちと共にあった時にも、演奏していたのは古い古い メロディー。
一人、ヨーロッパを旅しながら人々に歌い聞かせていたのも、伝統的な過去の物語。
自分の詩は気に入っている、しかしなにか物足りない。
今の時代とは感覚がずれているからか。目の前の少女や、この隆盛極まりない国々をしたたかに生きる人々の手の中で、世界は深く息づいている。

…そうだ。

今この世界の最先端に立つ、気鋭の船乗りたちの冒険譚を詩にしてみよう。
荒波にもまれ、死線をくぐり、私たちの知らない異国を旅する航海者の話から、
きっと素晴らしい詩が生まれるはず。

ニナや、バザールに参加する人々を目にしてそんな気持ちにさせられた私は、彼女とともに船乗りが集う酒場に向かう。気さくな船乗りたちと互いにワインを酌み交わしながら、色々な体験談を聞かせてもらったよ。



楽しい話や勇敢な話、どれもこれもが心に残る逸話で、
つい時が過ぎるのを忘れてしまった。
もう少しで素晴らしい詩をみなさんに披露できそうだよ。楽しみにしていておくれ。

風の向くままに旅をしてみよう
今度は何処の街に着くだろう

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