あらすじ

「誰も憶えていないことは、存在しないことになるのだろうか…」

本州の南に浮かぶ群島のひとつ、朧月島ろうげつとう
この島では古くより、月を記憶や人格の象徴として信仰し
魂が訪れる所、魂が帰る場所として崇めていた。
十年に一度、月に影が満ちる時。
朧月島の神事『朧月神楽ろうげつかぐら』が開かれる。

朧月神楽:朧月島の神事。死者と生者の対話を表現し、故人を偲ぶことが目的と伝わる。古くは秘祭として隠されていたが、次第に島外の観光客にも公開されるようになった。

仮面をつけた人々に囲まれて、
楽器を奏でる少女たち。
憑かれたように舞う仮面の女。
月光の下、旋律は繰り返され、速まっていく――

朧月神楽の踊り手は「うつわ」、器の周りで楽器を弾く巫女たちは「かなで」という。

その最中さなか、五人の少女が神隠しに遭った。
水無月 流歌みなづき るか麻生 海咲 あそう みさき月森 円香 つきもり まどか奈々村 十萌 ななむら ともえ篠宮 鞠絵 しのみや まりえ
のちに彼女たちは灰原病院の地下より助け出されたが、
神隠し以前の記憶をすべて失くしていた。

灰原病院:朧月館が建てられる前から島にあった古い病院。島民は朧月館を新館、灰原病院を旧館と呼んでいる。

十年後。
神隠しに遭った五人のうち、
奈々村十萌、篠宮鞠絵の二人が死んだ。
泣き叫ぶ顔を、両手で必死に覆い隠して。
何か恐ろしいものを、見まいとするかのように…。
彼女たちの死をきっかけに、朧月島をめぐる三つの物語が動き出す。

「帰ってくるの…朧月島…」

麻生海咲には、どうしても知りたいことがあった。
色あせた記憶の断片に映る、黒衣の少女。
彼女は誰なのか、何故自分は彼女を知っているのか…。
手がかりを求め、導かれるように朧月島へ渡る海咲。
同行する友人の月森円香は内心、
過去を取り戻した海咲が
自分から離れてしまうことを恐れていた…。

「私は確かめたい。あの時…何があったのか」

水無月流歌には小さい頃の記憶がない。
生家の景色も、父の顔も、すべてが朧に霞んでいる。
ただひとつ…。
ピアノを弾くたびに、朧月神楽の旋律が蘇る。
十年前、自分たちが神隠しに遭った日、何があったのか…?
二人の友人・麻生海咲と月森円香を追い、
流歌は再び朧月島へと足を踏み入れる。
失った記憶の先にあるものを確かめるために…。

「流歌を助けてください」

朧月島で目覚めた探偵・霧島 長四郎きりしま ちょうしろう
水無月 流歌の母・小夜歌さやかから
流歌の捜索依頼を受けたことを思い出した。
灰原病院、月幽病の記録、朧月神楽…。
島の探索を続けるうちに、自分がかつて追った
連続殺人犯・灰原 耀はいばら ようと朧月島のつながりが明らかとなる。