ラブφサミット
     
  (ゲストハウス)

車はとても趣のあるたたずまいの洋館の前で停まった。

なんとか文化財って感じの、古めかしくて美しい建物。

入り口の表記を見る限りだと、どうやらゲストハウス――つまり迎賓館みたい。そんなものがある学校なんて初めて聞いたよ。

リヒャルト

「どうぞ、お手を」

リヒャルトは、先に車から降りると、あたし側のドアを開けて恭しく手を差し伸べてきた。

これまでの経緯を考えると、正直ちょっと身構えちゃうんだけど…。

かといって、あからさまに拒絶するのもなんだかなって気もする。

「…ありがとう」

なるべく不安を気取られないようにしながら手を取り、車から降りる。

うん、特になにかしてくるわけでもない。

これは、本当に危害を加える気はないのかも…。

だとしたら、あたしはなんのためにここに連れてこられたんだろう?

「リヒャルト!」
エミリオ

サッカーボールを小脇に抱えた男の子が向こうから駆けてきた。

リヒャルトと親しげに話しだす。

「なーなー、リヒャルト、この子がそう?」
「ああ、そうだ。あんまり失礼な物言いをするな」
「へ~」

リヒャルトの注意なんて聞いてない風に、くりくりしたネコ目が、遠慮なくあたしのことを眺めてくる。

いかにも興味津々です!って感じ。

あれ、この人ひょっとしてどこかで…。

リヒャルト

「おいエミリオ、あいさつくらいしたらどうなんだ」
「エミリオ! やっぱり!」

名前を聞いて、記憶のピントが合う。

そうだ、この人、モデルのエミリオだ!

雑誌とかCMに引っ張りだこで顔を見ない日はないくらい。

もっと大人びたイメージがあったからちょっとわからなかったけど…年相応っていうか、普段はこんな感じなんだ。

エミリオ

「あっ、オレのこと知っててくれたんだ?」 

くしゃっとした笑顔はまるでネコみたいで。

初対面の男の子に対してこんなこと思うのもなんなんだけど、すごくかわいい。

「じゃあ、お礼」

よーく見てろよ、と右手をもう片方の手で指す。

すると、ぽんっ。

手のひらに、銀紙に包まれたチョコレートが1粒出現。手品だ!

驚いたあたしのリアクションに、得意げにして。

「はいっ。プレゼント」

ぽいっ、と軽く投げてよこす。

「わっ」

落とさないように両手でキャッチ。

銀紙には“Bacio”って単語がプリントしてある。

(ばー…? 英語じゃなさそうだけど…)
「その言葉の意味、知ってる?」

まるで誘いかけるようにほほえむ瞳の光がゆらめいて。ふいにどきっとしてしまう。

リヒャルト

「エ ミ リ オ」

わ…声にトゲがある。いい加減にしろ、というニュアンスが言外にこめられているのがよーく伝わってくる。

「はいはい」

う、こっちはこっちで受け流した。肝がすわってるなあ…。

でもリヒャルトがことさらに腹を立てる様子もないし。このふたり、けっこう仲がいいのかもしれない。

「こちらへ」

うながされてリヒャルトと歩き出す。

「あの、あたしなんのために連れてこられたんでしょうか…?」
「私が申し上げるべきことではありません」

~~この人やっぱり取り付く島がないなあ…嫌われてる感じはあんまりしないんだけど。

あたしとムダ口きいたらダメって決まりでもあるの? って思っちゃう。


――って、あれ?


気づけばエミリオがしれっとくっついてきてて。

振り返ったあたしににっこり。

エミリオ

「なに? チョコもう1個欲しいの?」

これはさっきの…口説きモードスマイル。

…こっちはこっちで、うかつに口をきけない…かも。

「う…ううん、大丈夫。ありがとう…」

あたしは、こっそり、こっそり肩を落とした。

リヒャルトにしたがってゲストハウス内へ入ると、ギリシャの神殿かなにかかと思うくらい壮麗。

うっかりどこかにキズをつけてしまわないように。ちょっと身を硬くする。

リヒャルトはまどうことなく2階へ上がっていき、ある一室の前で止まった。

深いあめ色の扉が、いかにも中にボスを隠していそうな雰囲気。

コンコンコン。

「リヒャルト・クヴァンツです。“鷹の姫”をお連れいたしました」
(タカノヒメ? …あたしのこと?)

先にリヒャルトが。そのあとうながされて、あたしも部屋の中に入る。

「失礼します」
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