ラブφサミット
     
  (通学路)
「いってきまーす」

いつもみたいにうちを出る。
けど、気分だけはいつもとちょっと違ってて。

今日から新学期。
でもって、高校2年生。

ずっと向こうまで続く桜の並木道。
通いなれたいつもの道を、新鮮な気分で歩いてく。

風もないのに、はらはら桜吹雪。今年の花ももうすぐおしまい。

こういうのをふと意識するあたり、あたしって、けっこうしっかり日本人なのかも。

――と。
淡いピンクの光景の中に、すーっと黒光りのするハコがすべりこんできた。

…外車? どう見ても高価そう。

(???)

車が…ぴたり。あたしの横で停まった。

後部ドアが開いて、スレンダーな男の子が姿を見せる。

姿勢がよくて、眼鏡の奥にのぞく、切れ長の目が印象的。

そのあとは、本当に一瞬の出来事。

リヒャルト
(リヒャルト)

「あなたをお迎えにあがりました」
「えっ!? あ! わあっ!」

どういうこと? なんて聞き返すヒマもなく、気づいたら車はもう走り出してて。

あたしはというと…なぜか車の中に…。



(車の中)

車の窓の外で、見なれた光景が巻き戻されていく。

通いなれたいつもの道のはずが、まるっきり未知の空間みたい。

あたし、どうして知らない人の車に乗ってるの?

あたしの頭の中をのぞいたみたいに、シート向こう側のメガネ男子が名乗る。

リヒャルト

「私は、リヒャルト・慧梧(けいご)・クヴァンツ。――あなたのしもべです。
どうぞリヒャルトとお呼びください」
「しもべ!?」

反射的に、即聞き返してしまう。

「しもべはしもべです」
「そんなこと言われても」

これ、どう見ても尊大っていうか、しもべとか名乗る人の態度じゃない気が…。

そう、この人はしもべなんかではなく誘拐犯だ。

(ナニ人かすらよくわからない人に誘拐される覚えなんてないんだけど…)

ともすると、命さえ自由にできてしまうわけで…。

すると、彼はまたしてもあたしの頭の中をのぞいたみたいに言い放つ。

「あなたにご同行いただいた目的は、身代金でも、ましてあなたの命でもありません。
どうかご安心を」
(そんなこと言われても…!)

あたしは心の中で叫んだ。

しかも、“ご同行”なんて、そんな生やさしいものじゃなかったし…。



(シエルテール学園)

どこへ連れていかれようとしているのか、目的はなんなのか。

たずねてもリヒャルトは一切答えてくれなくて。

なすすべなく流れていく景色を眺めていると。

(なにあれ)

こつぜんと、進行方向正面に万里の長城が出現した。

いや、ここは日本だから本物があるわけないんだけど。

それくらい、目の前全部、どこまでも壁、壁、壁。

「…ここ…」
「“シエルテール学園”です。ご存じですか?」
「シエルテール…」

ご存じもなにも、シエルテールは知らない人なんて正直いないというほどの超有名校。

庶民立ち入り無用の一貫教育校で、各界セレブの子女が世界中からつどい、幼少時より英才教育を受けると言われてる。

超お金持ちなだけじゃなくて、相当頭もよくなきゃ入れない。

だから、とてもじゃないけどあたしには雲の上の場所だってイメージ。

あっけに取られている間に、車はするっと門を通過して敷地の中へ。

(な に こ れ !)

視界が一気に開けて、高い空が広がった。

スタイリッシュな現代建築と、伝統的な建造物が贅沢に土地を使って配置されていて…敷地の向こう側がまっっったく見えない。

…たしかこの学校って、専用の地下鉄が走ってるって聞いたことあるけど…なんか納得…。

あまりにも異常なこの状況。この先どうなるか、ますます不安…。

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