ラブφサミット
     
  (正門前広場)

シンシア

「ごめんなさい、少し待っていてもらえるかしら」

シンシアに言われるまま、あたしはゲストハウスの外に出ていた。

それも、ひとりきりで。
 

というのも、みんなゲストハウスに足止めを食ってしまったから。

さっきの不協和音の犯人は廊下にいたエミリオ。

勝手にくっついてきたはいいけど、ヒマを持てあましてサッカーボールで遊んでいたらしい。

それで、リヒャルトにパスしようとしたらスルーされて、飾ってあったツボを破壊してしまったとか。 (ツボ、いくらするんだろう…)

リヒャルトはそのとばっちり。連帯責任で片づけを手伝わされている。

シンシアはおじいちゃんに呼び止められてしまった。
(いったいなんの用なんだろう…)

戻ってきたら、寮へ案内してもらうことになっている。

このスキに逃げられないかと思ったけど、さっきの今なのでちょっと勇気が出ない。

だから、今のあたしにはすることもなくて。
所在なく、敷地をぶらぶらと歩くと、正門前の広場に出る。

連れてこられたときにも思ったことだけど、やっぱりとんでもない規模。
正門前広場から敷地全体を見回すと、それがいやというほどわかる。

「わっ」

引き返そうと身体ごと振り返った瞬間、男の人に顔面から衝突してしまった。

「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

…!
とっさに顔をのぞきこんじゃったけど…この人、ひょっとして怖い人?

アレクセイ

プラチナブロンドのソフトモヒカンがなんかいかつい。
背も高いし、鍛えてるっぽいし…。

「~~~~~」

ああああ、声にならないうめきを上げてる…!

当たりどころが悪かったのか、それとも…難くせつけるためにオーバーアクションしてるとか…。

ふと、かがんだシャツの襟元からテーピングのはしがのぞく。

この人、右肩――あたしが見事に頭突きをかました部分をケガしてたんだ!

「ごめんなさい、ケガしてるなんて…ああ、どうしようあたしったら」
「………気にするな」
「でも、すごく痛そう」
「あんたこそ、大丈夫か」

思いがけない気づかい。

青紫の、少し冷たいまっすぐな瞳にどきっとする。

あ、この人…さっき写真で見た…アレクセイさんだっけ?

「あ、あたしは大丈夫です。あの、よかったら荷物持ちます!」

勢いよく宣言して、場の凍りっぷりに我に返る。

ものすごーく、きょとんとされてしまった。

…うん、あたしが言われる側になってもきょとんとするかも…。

アレクセイ

「…あ、いや…、大丈夫だ。俺のことは放っておいてくれ」

…ですよね。

「アリョーシャ! 女性の厚意を無下にするなんて!」
ジャン=マリー

ロングコートの裾をひるがえしながら、カッ!とヒールの音を立てて長身の男の人が近づいてくる。

あ、この人もさっき写真で見た人だ!ジャン=マリーさんだっけ。

およそ同じ人類だなんて思えないほど手足が長くて、すらっとしていて。

おまけに女性顔負けというほど“美人”って言葉が似合いそうな感じ。
たれ目がちの目元に、ほんのり色気が漂ってる。しかも…まつげ長っ。

「瑠佳…お前いったいどこから現れた」
「それにひきかえ…君はなんて勇敢で心清らかな女性なんだ…!」
「!? 」

ジャン=マリーさんは、アレクセイさんを素通りして、まっすぐあたしに向き合う。

アレクセイさんは、軽く息をついてみせた。

質問を無視されたとか、発言の意図がわからないとか、そういった追及をまったくしない。ということは、これ、いつものことなの…?

ジャン=マリー

「どうか僕の女神になって…僕のジャンヌ」

あたしの手を両手で包み込むようにしてしっかりとる。

女神? ジャンヌ??

というか、えーと、なにごと…?

って、よく見たらこの人腰に剣差してる!

リヒャルト

「その手を離していただきましょうか」

リヒャルトだ。ツボの後始末が終わったんだ。

おや、とジャン=マリーさんはあたしの手を離す。

「しかも、なーにワケわかんないこと言ってんだよ。困ってんだろ」

今度はエミリオ。そのうしろにはシンシアも追いついてきてる。

「なにって、いたって明快な愛の告白だよ」
「なーにが愛だ。まだひとこともクチ聞いてないじゃんか」
「ふふ、愛は時間も言葉もすべてを超越するものだよ。
君にもいつかわかる日がくるさ」
「いつか…っておまえいったい何歳だよ!」
「うーん…生まれたての赤子、かな。
彼女に出会えて、新たに生命が始まったような心地だからね」
「どこの世界に身長180オーバーの新生児がいるんだよ!」
「……」

あ、アレクセイさんため息ついた!

一方、リヒャルトも無言のまま眼鏡をくいっと押しあげて。

ふたりとも止める気なし。
黙って見てる気だ…!

(この人たち…)

あっけに取られたあたしに、シンシアが耳打ちしてくる。

「あの人たちのことは放っておいて、行きましょう」
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