『聖殿 ‐謁見の間にて‐』

「――星を導く使命を持つ者たちよ。どうか、我が期待に応えてほしい。以上だ」

どこか幼く、しかし品格を伴う声が謁見の間に響き渡る。――――が。

「今の、いい感じだったんじゃねえ? けっこう威厳あっただろ」

ユエがパッと振り向く。先ほどまでの真剣な様子とはうって変わった、得意げな笑みを浮かべている。

「うんうん。これだけ練習すればね! 僕、もう、自分が木になったのかと思っちゃった。あ、暇だったって意味ね!」

パチパチ、と盛大な拍手をしているのはミラン。
その近くではロレンツォが笑みを浮かべながら手元のタブレットを眺めている。
この場とは関係のない情報を探しているようだ。

「ロレンツォ、てめぇ聞いてたのか?」

「もちろん。堂々として、首座の守護聖にふさわしい口上だったよ、ユエ」

何事もなかったかのように、ロレンツォが目を上げる。


普段『聖地』という特殊な場所に住まう守護聖たちだが、この日は『飛空都市』を訪れていた。
例の、女王試験の準備のためだ。

今回来たのは、ユエ、ミラン、ロレンツォの3人。
先ほどユエが読んでいたのは、女王候補に試験の説明をするための資料だ。
別宇宙の女王補佐官から、台本を貰ってきたらしい。

飛空都市に着いて数時間。練習のかいあって、ユエは説明の台詞を空で言えるようになっていた。

「女王候補かぁ。もうどんな子かは、わかってるんでしょ?」

ミランの質問にユエが頷く。

「ああ。候補は二人とも、バースにいる」

「へぇ~っ、ふたりとも!」

ミランが目を丸くする。


『宇宙は、女王と9人の守護聖たちに守られている』。

守護聖信仰が残る惑星も多い中、バースはその事実が神話化してしまった場所だ。

辺境の惑星なら珍しいことではないが、そこから来る女王候補たちは、試験自体を受け容れるのに時間がかかるだろう。


ロレンツォが、「それにしても」と口を開いた。

「何度聞いても不思議だ。宇宙意思が、女王になり得る資質を持つ人物を選定するなんて」

「女王は、宇宙意思を聞くことができる特別な方だからな。女王候補も、同じように特別ってことだろ」

ユエの答えに、ロレンツォは瞳を閉じてつぶやく。

「なんて面白い謎だろう。彼女たちとじっくり話せる日が待ち遠しい」

「……てめぇ、候補を裸ん坊にするつもりじゃねえだろうな」

「まさか」

「信用できねえ顔だな……」

怒るユエをよそ目に、ミランが歌うように話す。

「僕、いっぱいデートするつもりなんだ~! やるからには楽しいほうがいいし。
ユエだって、可愛い女の子たちが来たら、嬉しいでしょ?」

「別に嬉しかねえよ。宇宙のためにやるんだろ。試験は」

「えーっ、つまんない答え! ユエって、どういう子が好き、とかないの?」

「好みってやつか? それはやっぱり『俺様にふさわしい女』だな」

「そっか!」

ユエの返答を軽く流して、ミランは続ける。

「僕は、好みとかってよくわからないんだよね。だから早く、候補の二人に会いたい」

恋愛前提で待機するものではないだろう――そう言おうとしたユエだが、やめた。
それぞれが個別の楽しみを持っていたって、問題はない。
その代わりに咳払いをして、話を戻す。

「ともあれ、俺たち守護聖も頑張ろうぜ。
どんな奴にしろ、選ばれたからには誇りを持って臨んで来るはずだ。それを全力で支えてやらねえと」

「わかったよ。……さて、そろそろ聖地に戻るとしよう。あまり離れるのは良くない」

「『水』か」

「そう」

ユエとロレンツォが低い声で話す中、ミランがはーい、と明るい声で手を挙げる。

「提案! ゼノに言って、飛空都市も色々いじってもらおうよ。
自律型のステージを作って、どこでも踊れるようにするとか。呼んだら走ってきて広がってくれるの、便利じゃない?」

「ダンス選手権を行うわけじゃねえんだぞ。……まあ、でも、整備は必要だな。帰ったら話そうぜ」

「既に手は入っているから、我々がやるべきことはそれよりも……」

3人は、様々話しながら謁見の間を後にする。


女王試験開始まで、バースの時間であと4ヶ月。

あなたが来たときに、“新しい物語”が始まります―――。