
守護聖の仕事は、多岐にわたる。
『サクリア』を行使するだけでなく、トラブルが起きた惑星を鎮圧したり、時には民の相談に乗ったり――。
今日は原因不明の日照時間の増加について調べるため、ユエ、ノア、ヴァージルの3人が惑星アズールを訪問した。
惑星から戻った3人は、王立研究院 で簡単な報告を済ませた後、星の間 に集まる。
「急だったのに、二人ともありがとな」
ユエの言葉を聞いて、ノアは眉根を寄せる。
「ユエが無理やり連れて行ったくせに……」
「ノア、お前はいつまでもやる気ねーなぁ。お前の部屋に『守護聖の自覚』って書いた紙でも貼っておくか?」
「いらない。ユエがいないのに、ユエに見張られてる気分になりそう……」
「わかってねーなぁ。ユエ様の見守りなんて、とんだご褒美じゃねぇか」
そんな2人のやりとりを意に介さず、ヴァージルがユエに話しかける。
「それにしても……数値上サクリアは問題なく送られていたのに、あの惑星、随分荒れていましたね」
『サクリア』とは、宇宙を構成する9つの力のことだ。
光、闇、風、水、炎、緑、鋼、夢、地。
それぞれの力を司った守護聖が、宇宙に『サクリア』を送る。送った力の均衡が取れれば、その宇宙は安定を得る。
しかし、ここ――『令梟(れいきょう)の宇宙』では、トラブルが頻出しているのが現状だ。
「とある理由」から、この宇宙は長らく、不安定な状態が続いている。
ヴァージルの言葉に、そうなんだよなぁ、とユエは真面目な口調になる。
「サクリアの影響で、惑星の奴らの思想が変わっちまってる可能性もある。明日、他の奴らにも相談してみようぜ」
「ええ。……それにしても、『サクリア』ってやはり不思議なものですね」
「なんだ、そりゃ、今さら」
ユエの質問に、ヴァージルは屈託のない笑顔で答えた。
「惑星に降りると実感するんですよ。普段はなんというか…忘れませんか?」
「……忘れねぇ。お前って結構いいかげんな奴だよな」
「そうですか? 俺はいたって普通だと思いますけど」
軽口を叩く2人に乗らず、ノアは目をそらす。
そして、少し苦しそうに言葉を紡いだ。
「僕たちが持つ力は……人に大きな影響を与える。それを知ってても、知らなくても」
ノアの言葉に、ユエは真剣な口調に戻る。
「わかってる。だからこそ、俺は……全員が守護聖でいることに、誇りを持ってほしい。これが、自分の望む生き方じゃなかったとしても、だ」
「カナタの話ですか?」
「………………」
3人は、守護聖になったばかりの青年を思い浮かべていた。
『守護聖』や『女王』という言葉が、おとぎ話でしかない星から来た彼は、自分の役目に、戸惑い、苦しんでいた。
当初に比べれば、少しは落ち着いたかもしれない。だが、納得する人生を歩み始めたかと言われたら、遠く及ばないだろう。
しばしの沈黙の後、口を開いたのはユエだった。
「それでもあいつは、ここで『守護聖』として生きなきゃならない。できる限りサポートしていこうぜ、先輩守護聖としてさ」
「もちろんそのつもりですよ。バース出身者同士で仲良くされるのも、なんですし」
「は????」
「いえ。独り言です」
「今日は疲れた……。もう、部屋に戻っていい?」
そう言いながらノアは、既に星の間から出ようとしていた。
「ずっとここで話してる理由もないですね。さっさと帰りましょう」
「お前ら……まあいい。また明日から、よろしくな」
足早に去ろうとするノア、それを追うユエと、気にせず歩くヴァージル。 3人は、それぞれの部屋に戻っていった。