【 エッセイ部門 佳作 】 ゴリ夫 様

「のぶながのやぼうやろうぜ!」 と同級生の彼は言った。岐阜に住んでいたので、信長の名前は聞いたことがあったが、小学校中学年の自分に『信長の野望・覇王伝』はまだ早かった。同級生の彼が何故プレイしているのかわからないが、丁重にお断りした。

「信長の野望やろうぜ!」 小学校高学年の頃、また彼は言った。
その頃、岐阜の地名は信長が付けたことは知っていたが、差し出された『天翔記』はやんわりと断った。

「将星録やろうぜ!」 中学2年の頃、もう「信長の野望」とは言わなくなった彼に根負けしたわけではないが、中学校に入り、少し背伸びして難しいゲームをしてみたかったので、やってみることにした。

とはいえ初心者が一人だけというのも不安だったので、もう1人友達を誘ってプレイすることにした。プレイステーションの『将星録』を、3人で1つのコントローラーを回しあってプレイするのだ。シナリオは1582年の「本能寺の変」を選んだ。

そして、大名選び。戦国時代を授業で習ったとはいえ、大半が知らない名前ばかりだ。自分と同じく初心者の友人は、大名の顔がかっこいいという理由で長宗我部(元親)を選んだ。彼のことは元親と呼ぶ。誘ってきた友人は迷うことなく真田家を選んでいた。「なぜそんな状況の悪い大名を選ぶのか」と思ったことが今では懐かしい。彼は真田幸村を「幸村さま」と呼んでいたので「幸村さま」と呼ぶことにする。

自分はといえば、出来れば強いところでやりたかった。このシナリオで領土が一番広いのは無論織田家だが、何かバカにされそうなので、幸村さまから位置的に遠く、領土が広い毛利家でやることにした。

そしてゲームは始まる。初心者2人は幸村さまの教え通りにゆっくり進めていく。少しすると戦闘に勝ち始め、着実に領土を広げていった。ゲームも楽しくなってはいたが、そのうち歴史に興味が出てきて、武将ファイルや歴史の本等を読むようになっていた。

しかしながら幸村さまはすさまじかった。最初こそもたついたものの、蘆名家を滅ぼすと上杉、北条を滅ぼし急速に領土を広げていった。最初領土の少ない大名を選んだときは「ハンデを付けてくれたのか」と思ったが、そんなことは微塵も考えていなかったようだ。ゲームの方の幸村さまはすでに宿老だ。

ところで、ゲーム中、不文律ながら3人には「お互いの領土に攻め込まない」という三国同盟があった。お互い、CPUの領土ばかりに攻め込んでいた。しかし、CPU大名がいなくなった後のことを考えると、おそらく三人で骨肉の争いが始まるのであろう。自分は九州を併呑し島津や大友の有力家臣を部下にしていた。だが時は1590年、他の家臣も、いつ死んでもいい時期にきていた。余命十分の幸村さま及び真田十勇士、それとゲームにやり慣れた幸村さまに、まともにあたってはかなうわけがない。

そこで、先手を打っておくことにした。三国同盟が崩壊したら、元親の領土をまず滅ぼし、幸村さまに対抗することにする。そのため、今のうちにわが領土である姫路城の大坂城寄りにある元親所有の支城を乗っ取ることにした。ここを押さえればかなり有利になる。操作を間違えたふりをして、見事乗っ取る。2人からの冷たい視線を感じるが、「今後の戦いのことを思えばなんでもない」と思っていると、次の元親のターンで、いきなり支城の部隊に戦闘を挑んできた。しかも元親自身が出馬、こちらは足軽頭の児島なんとかだ。
 かなうはずがないと思いながら、「支城の地形を支えにふんばるしかない」 と考えていたら、いつまでたってもターンが回ってこない。しかし画面では戦争が着々と進み、児島が明らかに劣勢だ。混乱、火だるまで虫の息。見れば、元親がこちらの番になってもコントローラをよこさない。おい!と抗議をするが全くこちらには目をくれない。その目は明らかに座っている。そして戦闘終了。支城があっという間に取り返された。

ここに三国同盟は崩壊した。同盟を破った毛利家の領土が侵略されることは目に見えていた。が、都合のいいことに『烈風伝』が発売され、そちらをプレイすることになり、三国同盟は再結成された。「今度は同盟を破らないぞ」と誓った。

実際、破られなかった。高校生になり、元親とは同じ高校だったが、幸村さまは違う高校に進み、3人が一緒に遊ぶことも少なくなる。『嵐世紀』ではマルチプレイが出来なくとも問題はなかった。そのうち幸村さまは岐阜を離れ、いつしか連絡が取れなくなった。三国同盟は破られなかったが、解散してしまった。

元親と自分は、離れた時期もあった。だが大学を経て社会人となった今、2人とも京都に住み、今でも歴史に興味を持っている。いずれ、あの場所へ行こうと思っている。自分が奪った元親の支城のある場所に。場所からすれば伊丹城(有岡城)あたりだろうか。もし違っても、きっと2人とも面白がるだろう。幸村さまはいなくなってしまったが、この二国同盟は絶対に破るまい、と思う。

Page Top