【 エッセイ部門 佳作 】 金城パンダ 様

小谷山の長い山道を登ると大きな石垣群が見えた。

苔の生えた岩肌に手で触れると、ひんやりとした感覚が伝わってくる。

遠い戦国時代の絵物語が聞こえたような気がした。

 

全国各地の城跡を巡ることが今の自分のライフワークになっている。

きっかけを与えてくれたのは『信長の野望・天翔記』だ。

ゲームを通して歴史に興味を持ち、戦国史を学びその面白さに目覚めた。

 

私がはじめて「信長の野望」に出会ったのは高校生の時。

今ではパソコンというと全部ウインドウズだが、当時は国産のパソコンが人気を集め、

新しもの好きの父は富士通のFMタウンズというパソコンを購入した。

その時に父から初めて買ってもらったパソコンソフト、それが『信長の野望・天羽記』だ。

シミュレーションという初めてのジャンルに戸惑ったものの、好奇心旺盛な私はすぐにその魅力に飲み込まれてしまった。

 

まず、当時斬新だった軍団システム。

『天翔記』は総勢1000人の武将が登場する。

勢力が小さいうちは武将それぞれに個別の指示を与えていたが、勢力が拡大すると召し抱える武将の数も増え、大名一人で全ての政策をこなすには限界がでてくる。

そこで、有能な家臣を軍団長に指名し、大名はその軍団に自分の方針を伝え、軍団を指揮、統率して全国制覇を目指す。

当時高校生だった私は、自分がまるで社長か経営者になったようで、軍団を編成することがとても楽しかった。

会見コマンドを使い、部下、つまり配下武将の元を訪れては自分の方針を伝え、意見が違っていたら叱責する。

今から考えれば社長ごっこなのだが、当時高校生だった私にとって、たとえゲームでも人を動かすことは本当に面白かった。

 

そしてもう一つ。『天翔記』最大の魅力である武将の成長システムだ。

伊達政宗も徳川家康も本多忠勝も、登場したばかりの頃はパラメーターが低い。

得意であるはずの戦闘でさえ無名の古参武将に負けてしまう。

しかし、何年もかけて教育し、合戦で論功を積むに従って、本来の武将の器を開花させ、戦国時代に躍り出ることができる。

また、それぞれの武将に個性があり、コマンド時のセリフも違うので自然と愛着がわく。

饒舌な秀吉、豪快な半兵衛、無口な半蔵 ・・・

今のようにグラフィックの綺麗ではないドット絵に近い武将たちだったけれども、1000人の武将一人ひとりに魂が入っていた気がした。

 

そして今、私はPSP版の『信長の野望・天翔記』をプレイしている。
高校時代からはじめて、機種は違うとはいえ同じゲームをもう20年近くプレイしていることになる。
最近のゲーム業界の話を聞くと、時代はソーシャルゲームにあるという。
確かに市場の規模や収益の面を考えると、既存のゲームはソーシャルゲームに遠く及ばない。
しかし、20年以上ファンから愛されるソーシャルゲームがはたしてあるだろうか。

「信長の野望」は、私にシミュレーションゲームの面白さだけではなく、戦国時代に興味を抱くきっかけを作ってくれた。高校時代に熱中したFMタウンズはその後ウインドウズに負けて市場から姿を消し、パソコン自体も壊れてなくなってしまった。しかし、初めて買ってもらったパソコンソフト『信長の野望・天翔記』は今でも捨てられずにCDラックの中に入っている。
もう二度とFMタウンズで遊ぶことはできない。 でも、箱をあけると、今でもあの菅野よう子さんのメロディが聞こえてきそうで、楽しかった高校時代とたくさん遊んだ『天翔記』のゲーム画面をまぶたの裏に思い出すことができるのだ。

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