Message of photographer : Yumiko Matsui  for ‘Nao’


「 いつも自分のテーマで写真を撮っている私は、めったに頼まれものの仕事をすることがない。
だいたい1年の半分をアイルランドで過ごしているため、東京で撮影をする機会もほとんどなくなっていた。
そんな私に、無謀にもデビューCDのジャケット写真を撮らないかと持ちかけてきたのは、長年の知人で、
今はナオくんのディレクターとマネジャーをしている門屋くんである。

気ままに、ぶらぶらと撮り歩く私を使おうというのなら「つくりこんだ」写真を求めているのではないなと
安心して引き受けることにし、実際とても楽しい撮影をさせてもらった。

たいていCDジャケットの撮影というと、綿密な打ち合わせがなされ、当日もたくさんのスタッフの見守る中
一大イベントという感じの現場になることが多い。しかし、私たちの撮影は見事に「野放し」にしてもらい、
1月というのに春のような陽気の中、週末の静かな東京で、のんびりと撮り歩くという贅沢をさせてもらった。
今回の撮影で私がひそかに決めていたことがある。ナオくんがいつも見せている表情で、まだ印画紙に
記録されていない写真を撮ること。

彼はとてもプロフェッショナルで、カメラを向けるとさっと「いい表情」をしてくれる。
それをはずして、「素」の彼に戻るのを待つ。楽しいゲームだ。
しかし、彼にとっては、不可解だったにちがいない。

門屋くんにこっそり「ちっとも(シャッターを)押さないんですよー」とこぼしていたらしい。
が、彼は勘がよく、すぐさま私の「企み」を見抜いて、いい具合に「素」のままカメラの前に立ってくれた。
それは、なかなかに勇気のいることなのだ。
人は本能的に「いいところ」を見せようとしてしまう。「素」を見せられるのは自信がある人だ。
ナオくんは、意外なほどあっさりと「素」を見せてくれた。いつもじゃないけど、充分に。
撮影終了後、汗だくになりながらキムチ鍋をかっこむナオくんは、これまた無防備で、憎めないヤツという
感じであった。
まだまだ隠された表情がたくさんありそうで、楽しみなひとだ。


アイルランドから・・・松井ゆみ子でした。」                             back to top