ラブφサミット
     
  (ゲストルーム)

部屋の中には品の良さそうな老紳士と…どう見てもフツーのおじいさんがいた。

あたしの姿を認めると、ふたりともフレームに繊細な細工がほどこされた皮張りのソファから立ち上がる。

「ようこそ。初めまして、“鷹の姫”。私が学園長の――」
「わしが磐井戀山(いわい・れんざん)。
世界一の大富豪じゃ。まま、座れ座れ」
(!?)

聞きまちがい? なんか今、変な単語が聞こえた。

リヒャルト

「では、私は一旦下がらせていただきます。
外に控えておりますので、なにかございましたらお呼びくださいませ」
「おー、ご苦労じゃったのー」
(えっ、あっ、ウソっ!)

なんのためらいもなく、リヒャルトは席をはずしてしまった。

こんな瞬間まで鉄面皮で、美しい一礼を残して。

「さて…あなたをお招きしたのは他でもありません。磐井さまのたってのお望みなのです」

ごくごくフツーの…いや、フツーよりちょっと小柄で、白髪土星アタマの、自称“世界一の大富豪”が、それは大仰に“うむ”とかぶりを縦に振った。

「え? でも…あの、たしか初めてお会いしますよね?」

生まれてこの方16年、いたって平凡な庶民暮らしをしてきたわけで、大富豪なんてまったく縁もゆかりもない。

たってのお望みと言われても、まったく心当たりがない。

「おっと、そう急ぐでない。よいか、心して聞くのじゃぞ」

ふふん、とおじいさんは得意げに笑った。すう、と息を吸い込む。

「わしはお前のじーちゃんなのじゃー!!」
「え」

えええええ!?

ちょ、ちょっと待って。

あたし、お父さんからもお母さんからも、おじいちゃんはとうの昔に亡くなったって聞いてたんだけど…。

「まったく、その様子じゃ本当になにも知らんようじゃの。
つくづく親不孝な息子じゃ。聞くも涙、語るも涙なんじゃがのー」

おじいさんはとうとうと語りだした。それはもう延々と。

その長―い話をまとめると、こう。

このおじいさんはあたしのお父さんのお父さん。

おじいさんの意に反して、お父さんはお母さんと駆け落ちしちゃって、それ以来勘当状態だったとか。

だから、亡くなったことにされたらしい。

にわかには信じられないけど、そういえばうまいことはぐらかされていた気がする…

思い当たるフシは…

ある! あるよ!

でもだからって…ええええ!?

「証拠なら、ほれ」

信じ切れないでいたあたしに、おじいさんはなにか書類らしきものを突きつけてきた。

「これ…戸籍!?」

いかにも、と自信満々にうなずかれる。

目を皿のようにして見比べてみても、残念なことにまちがいない。

展開はぶっ飛んでるのに、どうしてこんなとこばっかり現実的なの!

「さて、ジジ名乗りを終えたからには、ちゃんとジジらしいことをせんとなー。
ジジとしてはやはりたったひとりの孫娘はかわゆうてかわゆうて仕方ないからの」

おじいちゃんは仕切りなおし、という感じであたしのほうに向き直った。

「…と、いうわけでじゃ。
この学園で、お前にふさわしい極上のムコを捕まえるんじゃ」
「え」

どこがジジらしいことで、どこが“かわゆうて仕方ない”のか。

「あの、普通、かわいくて仕方ない孫に結婚を無理強いしたりはしないと思うんですけど…」

若干引き気味に言葉を返すと、おじいちゃんは待ってましたとばかりにうきうきで続ける。

「それが、ちーとも無理強いなどではないんじゃな~」

脇に置いてあった書類ケースを得意げに掲げて。

「候補者6人のうちからよりどりみどりじゃ!
それも、“ロトφ(ファイ)”と呼ばれておる学園アイドルの連中じゃぞ~」

謎のワードを高らかに宣言しながら、中のものをばん! とテーブルに勢いよく取り出す。

それは、特大サイズに引き伸ばされた写真。あたしと同い年くらいの男の子が写ってる。

そして、あっけにとられっぱなしのあたしを置き去りに、いそいそと紹介を始める。

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