ジルオール -テジャワの変-
ジルオール -テジャワの変- 連載第5回(1/5)
「ああ。どうせそろそろお暇しようと思っていたところだ」
「貴重な情報、改めて感謝する」
「礼を言うのはこっちのほうだ。セリナに拾ってもらわなきゃ、俺は本気で死んでただろう。この恩はいずれきちんと返す。なにかあったら呼んでくれ」
冒険者ギルドを通せば、冒険者を呼び出すことはさほど難しいことではない。バイアシオン大陸のどこにいようと、セリナに呼ばれたらすぐに駆けつけるつもりでいた。
「えー、ジリおちゃんいっちゃうのぉ」
「またな。ティアナ」
頭をなでてやると、ティアナはうれしそうにぴょんぴょん跳ねた。
「うん。ばいばい」
ジリオンは、手を振るティアナに見送られて外に出た。
広大な館の門の前には、黒い四頭立ての馬車が止まっていた。そこに記されている紋章を目に焼きつける。
青地に銀の竜。
ジリオンでさえ知っている、ロストール王家のしるし。
「それじゃあ、やはりセリナは」
現国王セルモノーの王妃、エリスに間違いなかった。
ジリオンは、いまさらながらに冷や汗が背中に流れ落ちるのを感じた。
「王妃をお前呼ばわりしちまったぞ。大丈夫なのか、俺」
ロストールは貴族中心で世界が回っている王国だ。ジリオンのような平民が王妃と対等に口を利いたら、普通なら不敬罪で問答無用に打ち首だろう。
門衛にうさんくさい目でにらまれたので、ジリオンは足早にその場を離れることにした。
うっかりしていると、どんな難癖をつけられるか知れたものではない。仮に理由もなく殴られたとしても、相手が貴族なら平民は泣き寝入りするしかないのだ。
「これからどうするかな」
エリスの屋敷は小高い丘の上に建っていた。王妃である以上、本来は王宮にすまいがあるのだろうから、おそらくここは別邸のひとつなのだろう。身分の高い貴族はこうした屋敷をいくつも持っていると聞いたことがある。
眼下には、平民街がごちゃごちゃとかたまっているのが見渡せた。広場らしい空間にひときわ大きく枝を伸ばしているのは、ロストールの象徴とも言える神木『千年樹』だ。伝えられるところによると、王国建国以来その場にあり、千年樹が枯れるとき国もまた滅びるという。
「まずは冒険者ギルドに行ってみるか」
イーシャのことが気がかりだった。冒険者登録がされていれば、その人物が今どんな仕事を引き受けているか照会可能だ。
あまり考えたくはないが、もし死んでいたとしても、遺体さえ発見されていればやはりギルドに連絡が行っているはずだった。
「イーシャ……無事でいてくれ」
小さくつぶやくと、ジリオンは小走りに丘を駆け下りていった。
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