七海から天宮への伝言を引き受けたかなでは、天音学園の屋上の薔薇園で天宮を見つけ出す。
天宮に促されて茂みの陰で横になると、薔薇の花と温室のガラスの向こうに空が広がっているのが見える。
天宮「薔薇に包まれて眠っているような気分になるね。このまま、本当に眠ってしまうのも気持ちいいだろうな」
そこはふたりだけの世界のように、秘めやかな場所だった。
だが、かなでは天宮に伝言を伝えたことを七海にも連絡しなければとハッと身を起こす。
七海へのメールに集中するかなでの様子を見つめ、不意に天宮は気まぐれを起こす。
  「ねぇ、小日向さん。この薔薇、1輪、あげようか。君の部屋に飾るといいよ。香りもいいし」
その薔薇は、あまりにも鋭いトゲを持っていた。
無造作に手折ろうとする天宮をあわてて止めるかなで。
  「ようやくこっちを見たね。さぁ、これからどうしようかな……」
天宮がその瞳の奥で何を考えているのか、測ることはできない。
  「いけないことかな。僕が僕自身を傷つけるだけでも?」
狼狽するかなでの反応を楽しむかのように、薄く微笑を浮かべる天宮。
  「——っ……」
  「あ、しくじったな。つい…やりすぎた」
鮮血が天宮の指を流れ落ちる。何ごともなかったように——彼は自分自身にすら無関心であるかのように、その瞬間も表情ひとつ変えなかった。