『公園 ‐公園での一幕‐』

二コラが立ち去った後。ゼノが先ほどの会話を思い出して、カナタに話しかけた。

「カナタは『青空面談』のこと、テストみたいって思ってたんだ」

カナタは頷きながら、ゼノに答える。

「うん。あれやると、なんか自分が先生になった気になるんだよね」

『青空面談』。土の曜日か日の曜日に公園で行われる、女王候補と守護聖の問答だ。
女王候補は、自身が育てる大陸や、そこに暮らす民の状況、試験中の出来事の記憶、
守護聖同士の関係性など、包括的な知識を守護聖から問われることになる。

週末の過ごし方は女王候補に任されていて、必ずしも公園でデートを――『青空面談』をする必要はない。
だが、面談をすることで女王の資質をアピールできるため、勝負を意識するならば、うまく活用すべきシステムと言える。

「最初の頃は、公園デートって全然違ったじゃん。
女王試験の開催を祝ったピエロとか来ててさ。なんであれ、変わったんだろ」

カナタの話に、ゼノは当時を思い出して笑った。

「確かに最初は公園を歩いて、少し話すだけだったね」

女王試験が始まってすぐの頃は、飛空都市に来て間もない女王候補にまず慣れてもらおうと、
守護聖が公園をエスコートするような形式だったのだ。
が、最初の定期審査が終わった後、今の形に変わった。

「俺は今の方が楽しいかな」とゼノが話す。

「彼女が試験を頑張ってるのが伝わってくるからかな。あと、早く終わったら色々おしゃべりもできるし」

そう、『青空面談』が早く終われば――女王候補が回答を間違えることがなければ――その後は、
守護聖と様々な話をしながら過ごす楽しい「デート」の時間になる。

カナタも最近の公園での時間を思い出しているのか、目を閉じて言った。

「それは言えてる。……でも、自分から面談してって言ってくるお姉さんは、やっぱりすごいと思う」

ぽつりとつぶやくカナタに、ゼノは頷く。
そして、二人は公園を行き来する人々に目を向けた。

近くで、小さな子供が泣き始めた。
すぐさま母親と思われる女性がやって来て、子供を抱き上げる。優しい母子の姿。
それを見ながら、カナタの目は、飛空都市ではない、故郷を――バースを映していた。

「……カナタ。俺に出来ることがあったら、言ってね。同じ守護聖なんだし、一応カナタよりは先輩だし」

ゼノの言葉に、カナタは子供から目線を外し、微笑みを返す。

「マジですごく助かってるよ、ゼノ。ゼノがいなかったら、ずっと怯えてたし、状況もわかんないままだったと思う。
さっきだって、笑って学校の話とかできなかったかも」

ゼノにそう答えたカナタは、気持ちを切り替えるかのように頭を振って、言った。

「やば、もうこんな時間じゃん。そろそろ聖殿に戻る?」

カナタの言葉に、ゼノも時間を確認する。

「うん! 大陸視察の同行を頼まれるかもしれないしね」

「あー、オレ、行きたいな。お姉さん、オレのこと指名してくんないかなー」

素直に気持ちを話すカナタに、ゼノが笑いかける。

「大陸行くの、楽しいもんね。俺……は、どうだろ?選んでもらえる気はしないけど」

「え、先週、ゼノ行ってたじゃん」

「あれは多分、直前に大陸のバランスが乱れたから。今週は、どうかなぁ」

笑いながら、二人は、聖殿へと歩き出した。

定期審査
女王試験中、28日(1期間)に一度開かれる審査のこと。内容はその時によって変化するが、より良い結果を残したほうが勝利となる。なお、勝利の際は体力が追加される。
バース
あなたとカナタの出身地。辺境の惑星であるため、宇宙のバランスが乱れると影響を受けやすい。「バース」は中央星周辺での呼称。